『救いの手』 +++written by RIBI様+++
「ちびちゃん…、一体どうしたんだ…」 すっと、なんの躊躇いも無く差し伸べられる、大きな手。 「どうした? ちびちゃん…」 差し伸べられた手は、今もこうして私を待ってくれている。 「もうっ、ダメですよぉ。新婚の旦那様が、こんな所で油を売ってちゃ…。私はダイジョブですから、もう、行って下さい」 縋っちゃダメ! 頼っちゃ、ダメ! この手を取っていいのは、もう自分じゃないのだから。 「ダイジョブじゃないだろう。ほら、膝をすりむいてるじゃないか…」 「触らないでっ!!」 伸びてきた手を、必死で拒絶する。 「お願い…、触らないで下さい。こんなキズ、どってことないです。全然、痛くないし、全然…平気。だから…ほっといて下さい」 頬の筋肉を精一杯引きつらせて笑顔を作り上げる。 「痛くない?」 「はい」 「本当に?」 「はい」 これでいい。これで、この手は引っ込められて、彼は踵を返して行ってしまうだろう。 「じゃあ、何故…」 「え?」 「何故、君は泣いているんだ?」 力いっぱい引きつった頬。 「違うっ!違います。私は泣いてなんかいません。泣いてなんか…」 馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!! なんて馬鹿なのっ! もうちょっと、もうちょっとだったのに…! いくら否定しても、流れ落ちる涙は止められない。 「強がるんじゃない。ホラ、大人しくこの手に掴まりなさい」 目の前にある手。 「なんで… なんで私なんかに構うんですか。気にしたり、するんですか。そやって優しく、手を差し伸べたりしちゃうんですか」 残酷な優しさ。その優しさに、どれだけ私が苛まれて翻弄されているか、この人はきっと永遠に分かりはしないだろう。 「私なんて、放っておけばいいのに…」 「危なっかしくて、放っておけないんだ」
ひどい男。 その何気ない一言で、また私はがんじがらめに絡め取られる。 逃れられない、幾重にも重なったクモの巣にかかった虫みたいに。 まるで悪魔のようだ。 不用意に撒き散らされるその魅力の虜になって、自分はどこまでも愚かな女になる。
この手に縋りついて、ほんの少しの愛情を請うてしまいたいほどに────…
END
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