『救いの手』

+++written by RIBI様+++

 

「ちびちゃん…、一体どうしたんだ…」

すっと、なんの躊躇いも無く差し伸べられる、大きな手。
長く器用そうな指も、意外と太いその節も、短くそろえられた爪も、その手から薫る仄かな煙草の匂いも、全部全部大好きだと思う。
大好きな、大好きな、世界で一番大好きな…死ぬほど求めているその手。
いつもいつも、私が苦しい時、困った時、辛い時、この大きな手が私を助け導いてくれた。
紫の薔薇の向こうで、私はいつもこの大きな手に守られていた。

「どうした? ちびちゃん…」

差し伸べられた手は、今もこうして私を待ってくれている。
でも…、でも…っ!

「もうっ、ダメですよぉ。新婚の旦那様が、こんな所で油を売ってちゃ…。私はダイジョブですから、もう、行って下さい」

縋っちゃダメ!  頼っちゃ、ダメ! この手を取っていいのは、もう自分じゃないのだから。
この手は、もう永遠に、あの美しい人だけのものなんだから…

「ダイジョブじゃないだろう。ほら、膝をすりむいてるじゃないか…」

「触らないでっ!!」

伸びてきた手を、必死で拒絶する。

「お願い…、触らないで下さい。こんなキズ、どってことないです。全然、痛くないし、全然…平気。だから…ほっといて下さい」

頬の筋肉を精一杯引きつらせて笑顔を作り上げる。
ほら、私は大丈夫。
貴方がいなくたって…、貴方の手を借りなくたって…。
大丈夫だから、もう、私を放って、振り向く事無く、行ってしまってください。
遠く、遠く、貴方の後姿さえも見えないくらい、私から遥か遠くへ。

「痛くない?」

「はい」

「本当に?」

「はい」

これでいい。これで、この手は引っ込められて、彼は踵を返して行ってしまうだろう。
あの美しい人の元へ。
私から遥か彼方へ。
これで…いいんだ。

「じゃあ、何故…」

「え?」

「何故、君は泣いているんだ?」

力いっぱい引きつった頬。
強張ったそこに、行く筋も伝う雫。
手で触れて、初めて気付いた。
自分が泣いている事を。

「違うっ!違います。私は泣いてなんかいません。泣いてなんか…」

馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!! なんて馬鹿なのっ!

 もうちょっと、もうちょっとだったのに…!

いくら否定しても、流れ落ちる涙は止められない。
自分を呪い殺してしまいたい。

「強がるんじゃない。ホラ、大人しくこの手に掴まりなさい」

目の前にある手。
昔から、少しも躊躇わずに私に差し伸べられる、その大きな手。
それは、今となっても変わる事なく…

「なんで… なんで私なんかに構うんですか。気にしたり、するんですか。そやって優しく、手を差し伸べたりしちゃうんですか」

残酷な優しさ。その優しさに、どれだけ私が苛まれて翻弄されているか、この人はきっと永遠に分かりはしないだろう。

「私なんて、放っておけばいいのに…」

「危なっかしくて、放っておけないんだ」

 

ひどい男。

その何気ない一言で、また私はがんじがらめに絡め取られる。

逃れられない、幾重にも重なったクモの巣にかかった虫みたいに。

まるで悪魔のようだ。

不用意に撒き散らされるその魅力の虜になって、自分はどこまでも愚かな女になる。

 

この手に縋りついて、ほんの少しの愛情を請うてしまいたいほどに────…

 

END

 

 


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